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しずくしか落ちてこないのに、鍾乳洞のつららはなぜ伸びる?

しずくしか落ちてこないのに、鍾乳洞のつららはなぜ伸びる?(アイキャッチ)
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しずくしか落ちてこないのに、鍾乳洞の天井のつららは、どうして伸びていくのでしょうか。

ちーがくんとはかせと一緒に、探査装置「はかせ号」で、鍾乳洞の中を探検してみましょう!

暑い午後と、気の抜けた炭酸水

―真夏の午後。研究室の裏庭では、朝からせみが鳴きつづけています。

ちーがくん
ちーがくん
はかせ〜、暑すぎます! じっとしてても、汗が止まりません! 何か冷たいものが飲みたいです〜!
はかせ
はかせ
うむ、今日の暑さはこたえるな。日陰におっても、汗がちっともひかん。……そうじゃ、ちーがくん、冷蔵庫に炭酸水があったぞ。よう冷えておるはずじゃ。わしは麦茶にしようかの。
ちーがくん
ちーがくん
やったあ、いただきます! ……あれっ? ピリッとしない! あっ、これ、昨日開けて飲みかけのまま忘れてたやつだ! 炭酸、すっかり抜けちゃってます!
はかせ
はかせ
ひと晩、ふたを開けたままじゃったか。それでも、冷たいだけで十分ありがたいぞ。……こう暑いと、どこかひんやりした所へ行きたくなるものじゃ。そうじゃ、鍾乳洞はどうかの。中は、夏でもひんやりしておるんじゃよ。

鍾乳洞のつららは、最初からあの形?

ちーがくん
ちーがくん
えっ、こんなに暑い夏でも、ひんやりしてるんですか!? 鍾乳洞って、テレビで見たことがあるような……。たしか、天井から岩のつららがたくさん垂れてて、不思議な空間だった気がします。あの岩のつららって、最初からああいう形の岩なんですか? それとも、水が削ったのかな。でも岩って、雨に打たれたって溶けないですよね?
はかせ
はかせ
おお、テレビで見ておったか。天井いっぱいに、白い岩のつららが下がっておる所じゃ。……さて、ちーがくん。あれは、はじめからそういう形の岩なのか、水が削った形なのか、どっちじゃと思う? 答えは、はかせ号でちゃんと確かめられるぞ。

はかせ号で、鍾乳洞へ

ちーがくん
ちーがくん
うーん、岩は雨でも溶けないから……やっぱり、水が削ったのかな? はかせ号で、確かめられるんですか?
はかせ
はかせ
うむ、自分の考えを持って見に行くと、見え方がぐんと変わるぞ。はかせ号で、鍾乳洞の中へ行ってみよう。中はひんやりしておるから、ちーがくん、上着を一枚持っておいで。……それでは、はかせ号、出発じゃ!
ちーがくん
ちーがくん
上着!? こんなに暑いのに……あっ、それくらい涼しいってことですね! 待ってください、はかせ、僕も乗ります!

ひんやりした洞窟と、しずくの音

―はかせ号がまばゆい光に包まれました。光がおさまると、ひんやりした空気の中に、ぽたり、ぽたりと水の落ちる音。はかせ号のあかりの先に、天井いっぱいの岩のつららが浮かび上がっています。

ちーがくん
ちーがくん
うわあ、ひんやりする! 上着、持ってきてよかったです! 天井から、岩のつららが何本も垂れ下がってます! テレビで見たのと同じだ!
鍾乳洞の中。天井から下がるつららと床から立つ石が、真ん中でつながったような形の柱が、何本も立っている。床には青い水たまりがある。画面の計器に「時代 現在」と出ている
はかせ
はかせ
ここが鍾乳洞の中じゃ。さっきまでの暑さが、うそのようじゃのう。……ぽたり、ぽたりと聞こえるのは、つららの先から落ちるしずくの音じゃ。じゃが、天井は高いし、しずくは小さくて、落ちるのも一瞬じゃから、ここからでは、どこから落ちておるのか、目で追いにくいじゃろう。
ちーがくん
ちーがくん
ほんとだ、音はするのに、どこから落ちてるのか分かりません! どのつららなんだろう?
はかせ
はかせ
よし、はかせ号で、水の動きを光らせて映してみよう。目で追いにくいものを見やすくするのも、はかせ号の仕事でな。ちーがくん、窓のそばにおいで。一緒に、つららの先を見てみよう。

光るしずくと、石灰岩・鍾乳石

―はかせがつまみを回すと、つららの先に、白く光る粒がともりました。

ちーがくん
ちーがくん
わっ! つららの先っぽから、白く光るしずくが、ぽたって落ちていきます! さっきの音は、これだったんですね!
同じ鍾乳洞の中で、つららと床のあいだに、白く光る短い筋がいくつも見えている。画面の計器に「時代 現在」と出ている
はかせ
はかせ
うむ、あれが音の正体じゃ。本物のしずくは光らん。はかせ号が、水の動きを見やすいように、光らせて映しておるんじゃ。……それから、この洞窟の岩は、石灰岩という岩じゃ。天井から下がっておるつららは、鍾乳石と呼ばれておる。
ちーがくん
ちーがくん
目で追いにくかったしずくの通り道を、はかせ号が光で見せてくれてるんですね! 地図で、通る道だけ色をぬって見やすくするみたいに! でも、このつららって、こんなに長いのに……やっぱり最初から、この形でぶら下がってたんでしょうか?
はかせ
はかせ
うむ、地図の色は紙の上だけで、本物の道は何も変わらん。ここでも光っておるのは映し方だけで、本物のしずくには何も足しておらんのじゃ。……最初からこの形だったのかどうかは、はかせ号で、この同じ洞窟の昔へ戻って、確かめてみよう。

同じ洞窟の昔へ ―― 時間を早回しにして見る

―光がおさまると、そこは同じ洞窟でした。けれど、天井にも床にも、何もありません。

ちーがくん
ちーがくん
あれっ、天井につららが一本もありません! つるつるです! 床にも、なんにもないです!
つららも床の石も無い洞窟。天井から床の水たまりへ、白く光る筋だけが落ちている。画面の計器に「時代 約3万年前」と出ている
はかせ
はかせ
うむ、ここは、同じ洞窟の、ずっと昔じゃ。計器は、だいたいの目安で、3万年前ごろを指しておる。……ちーがくん、ここから時間を大きく早回しにするぞ。ほんとうはとてもゆっくり進むことを、ぎゅっと縮めて見せるんじゃ。一緒によく見ておこう。
ちーがくん
ちーがくん
うわあっ! 床から、石がにょきにょき伸びてきました! しずくが落ちるところから、上へ、上へ! 落ちてくるのは水だけなのに、どうして石が増えるんですか!?
はかせ
はかせ
うむ、見る見る伸びておる! あれは石筍というんじゃ。……削られてできた形なら、岩は減っていくはずじゃが、あの石筍は見てのとおり増えておる ―― 床の石筍は、足されてできた形なんじゃ。……ちーがくん、今度は天井の方も見てごらん。
床の水たまりのまわりに小さな石がいくつか立ち、天井からも短いつららが下がっている。そのあいだを白く光る筋が落ちている
ちーがくん
ちーがくん
天井……あっ、天井のつららも、下へ伸びてます! 天井と床で、いっしょに伸びてたんだ! じゃあ、落ちてくる水の中に、石灰岩が溶けて、見えなくなって入ってたってことですか!? 紅茶に溶けた砂糖みたいに!
はかせ
はかせ
紅茶の砂糖も、溶けて見えなくなっても入っておる ―― そこが同じじゃ。ただ、砂糖水は乾くと砂糖が残るが、つららができるおもなわけは、水が乾くことではないぞ。石灰岩は、土の中をくぐってから岩の割れ目をしみてくる水に、少しずつ溶けて、目に見えない形で水の中に入る。水そのものは落ちていき、天井と、落ちた先の床で石になって残るのは、溶けていたものの一部じゃ。天井で石になるわけは、今の洞窟で見てみよう。
コップに入った水の図。上に「水に、溶けるものを入れる」、下に「見えなくなっても、水の中に入っている」と書いてある。コップの中には何も見えない
ちーがくん
ちーがくん
はかせ、こうして早回しにして、やっと伸びていくのが見えるんですね! ふつうの速さだったら、伸びてるなんて分からないくらいなんですか!?
はかせ
はかせ
うむ、早回しにして、やっと見える速さじゃ。人間が調べた洞窟の石筍などが伸びるのは、とってもゆっくりでな、伸びる速さもばらばらなんじゃ。雨に打たれても岩が溶けんように見えるのも、変わるとしても、目では分からんほどゆっくりだからかもしれん。計器の年も、早回しに合わせて出しておる、だいたいの目安じゃ。
ちーがくん
ちーがくん
時計の短い針も、じっと見ていると動いてるのが分からないけど……つららは、その短い針より、もっともっとゆっくりなんですね! でも、見えないだけで、伸びてるあいだはちゃんと進んでるんだ!
はかせ
はかせ
うむ、目には見えんだけ ―― そこなんじゃ。短い針なら、しばらく待てば動いたと分かるが、石筍などはそれと比べものにならんほどゆっくりでな、それでも伸びておるあいだは、少しずつ進んでおる。花崗岩 ―― みかげ石という岩も水で少しずつ変わっていくが、同じ条件なら、石灰岩が溶けるより、もっとゆっくりなんじゃ。さあ、今の洞窟へ戻ろう。
「早回し」と書いた図。左に時計があり「時計の短い針」、右に山の形の石があり「石筍」と書いてある。下に「早回しにして、やっと伸びるのが見える」とある

水は落ちていくのに、なぜ石が残る?

―計器の表示が「現在」で止まりました。天井のつららを、光る水の筋が、ゆっくりと伝い降りていきます。

ちーがくん
ちーがくん
はかせ、つららの表面を、水がつーっと伝って流れてます! 先っぽまで来ると、しずくになって落ちていきます! 水は落ちていくのに、どうして溶けていたものだけ、つららに残るんですか?
はかせ
はかせ
うむ、そこが肝心なところじゃ。……雨水は、二酸化炭素 ―― わしらの吐く息にも入っておる気体が、まわりの空気よりずっと多い土の中をしみていくあいだに、それを取り込む。取り込むほど、石灰岩をよく溶かせるんじゃ。じゃが洞窟の空気は、ふつう土の中より二酸化炭素が少ない。だから、つららを伝って流れるあいだに、水の中の二酸化炭素が少しずつ空気へ出ていき、溶けていたものの一部が、また石になって残るんじゃ。
鍾乳洞の中で、つららを伝って流れる水のところから、まわりの空気へ向かう矢印がいくつも出ていて、上に「二酸化炭素」と書いてある。画面の計器に「時代 現在」と出ている
ちーがくん
ちーがくん
二酸化炭素が、少しずつ空気へ出ていく……あっ、昨日の炭酸水と同じだ! ひと晩開けっぱなしにしてたら、すっかり気が抜けてました!
はかせ
はかせ
うむ、出ていく向きは同じじゃ。さっきの炭酸水が、洞窟の奥とつながったな。ここで主に出ていくのは、水の中に溶けていた二酸化炭素でな、水そのものは、つららを伝ってそのまま流れ落ちていく。二酸化炭素が出ていくと、溶けていたものの一部が水の中にいられなくなって、つららに石になって残る。そうして天井のつららは、少しずつ下へ伸びていくんじゃ。

裏庭に戻って、ちーがくんのまとめ

―研究室の裏庭に戻ると、むっとする暑さと、せみの声が待っていました。

ちーがくん
ちーがくん
はかせ、今日見たこと、僕の言葉でまとめてみてもいいですか?
はかせ
はかせ
もちろんじゃ、聞かせておくれ。……外はあいかわらずの暑さじゃが、洞窟のひんやりした空気を思い出しながら、ひとつずつでよいぞ。洞窟で見たことを、順に並べてみよう。
ちーがくん
ちーがくん
岩って、水には溶けないと思ってました! でも石灰岩は、水に少しずつ溶けるんですね。土の中で二酸化炭素を取り込んだ水だと、もっとよく溶けるんだ!
はかせ
はかせ
うむ、まずそこじゃな。石灰岩は水にゆっくり溶けて、土の中で二酸化炭素を取り込んだ水ほど、よく溶かせる。
ちーがくん
ちーがくん
それから、天井のつららは、最初からあの形だったんでも、水が削ったんでもなかったんだ。しずくしか落ちてこないのに、天井でも床でも、石が増えていきました!
はかせ
はかせ
そうじゃ、削られて減った形ではなく、少しずつ足されてできた形じゃった。……ここからが、つららの伸びるしくみの肝心なところじゃ。
ちーがくん
ちーがくん
つららを伝う水には、石灰岩が溶けて、目に見えなくなって入ってるんだ! 洞窟の天井で、炭酸水みたいに気が抜けると、溶けていたものの一部が少しずつ石になって残るから、つららが伸びるんですね!
はかせ
はかせ
うむ、そのとおりじゃ。土の中で二酸化炭素を取り込んだ水が、洞窟の上の石灰岩の割れ目をしみてくるあいだに、石灰岩を少しずつ溶かしこむ。溶けたものは、目に見えない形で水の中に入っておってな、洞窟で二酸化炭素が空気へ出ていくと、水に溶けていたものの一部が天井で石になって残り、落ちた先の床でもまた一部が残る。……あのつららは、長い長い時間をかけて、少しずつ足されてきた形なんじゃよ。
ちーがくん
ちーがくん
はかせ、暑い夏になったら、また鍾乳洞に行きたいです! それに、世界には、ほかにもたくさんの鍾乳洞があるんですよね!
はかせ
はかせ
うむ、また行こう。世界にもたくさんあるし、日本にも、中を歩いて見学できる鍾乳洞があちこちにあってな、日本の鍾乳洞なら、夏に入ると、外の暑さがうそのようにひんやりしておる。今度は、はかせ号の光なしで、つららの先のしずくを探してみるのも楽しいぞ。

気の抜けた炭酸水を、もう一度

―ちーがくんは冷蔵庫から、気の抜けた炭酸水をもう一度取り出しました。ただの水みたいになった、いつもの炭酸水。けれど今日からは、それを見るたびに、あの暗い洞窟の奥で、しずくといっしょに少しずつ伸びてきたつららのことを、思い出すのでした。

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地学教育普及活動家/気象予報士
ちーがくん
地学教育を普及させるために文系コースから高3で理転した大学院生です。大学では地球科学を専攻し、現在は気象系の研究室に所属しています。地学教育の空洞化を食い止めるために、当ブログを運営しています。このブログを通じて、地学教育の実態や、地学の魅力をお伝えしていきます!
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